「……何だ、これは」
開口一番、怪訝そうな声音に身じろぎする。
コノエは視線を彷徨わせ、低くぼそぼそと呟いた。
「……チョコレート、だけど……」
「見れば分かる」
即答されて押し黙る。
机を挟んで、無言のライと対峙していた。
目線はライを捕らえることはなく、机上の包みに注がれていた。
ともすれば、それさえ視界から消えそうになるほど、コノエの頭は沈みがちになる。
沈黙が痛い。
綺麗にラッピングされたそれは透明な包みで、外からでもチョコレートだと分かる。
実は中には洋酒が入っているのだが、この際それは現状を好転させる何かにはなりえなかった。
「…………」
盛大なため息にびくりと肩を震わす。
恐る恐る顔を上げると、ライが目を細め尾を一振りさせた。
「……で、何だ」
もう一度問われる。
先の回答では満足しなかったらしい。
当たり前だが。
じりじりと過ぎていく時間は、コノエに後悔の念を思い起こさせた。
硬くなる身体と共に尾も緊張でぴんと張り詰める。
何度か逡巡した後、重い口を開いた。
「最近……、疲れているみたいだったから……」
聞こえるか聞こえないかの小さい声で話す。
ライが眉を顰めたのが分かった。
コノエはしどろもどろに言葉を探す。
「甘いものは疲れに良いって聞いた。だから……」
その後を続けられずに、コノエは項垂れた。
耳がこの上なく下がり、気持ちも沈んでいく。
「……それで、チョコレートか」
ライの方を見るのが怖かった。
恐らく呆れているのだろう。
そっと息をつく気配が伝わってくる。
バカだ、とコノエは自分を呪わしく思った。
常にライが言い続けている「ばかねこ」と言う言葉がぴったりと当てはまる。
たまたま遊びに行ったトキノの店先で、手に取ったチョコレート。
いつの頃からか、大切な誰かにチョコレートを贈る日と言うのが出来て、それが今日だと言うことを知った。
起源はどうやら「二つ杖」らしいということも言っていた。
トキノが帰り際にクィムの実とそれを1つ持たせてくれた。
――大切な誰かって、何だ。
コノエは激しく落ち込んだ。
理由は分からなかった。
今、この時を、早く終わらせたい。
ただそれだけを願った。
どれくらい時間が経ったのか、ふいに空気が揺れた。
反射的に顔を上げる。
ライが包みを手に取り、まっすぐにコノエを見ていた。
「……貰っておく」
「……え」
「聞こえただろう。貰っておくと言ったんだ」
剣呑に言い放つライは不機嫌そのものだった。
何か文句でもあるのかと鋭い視線で睨まれ、コノエは微かに耳を伏せる。
張り詰めていた緊張が解ける。
自然と尾が揺れた。
「……ふん」
鼻を鳴らしたライはチョコレートの包みを開け始めた。
中には一口サイズのチョコレートが入っている。
一つ口へと放り込むと、ライはぼそりと呟いた。
「……あまい」
ライから差し出されたチョコをコノエも相伴する。
口内に広がった洋酒がほんのりと鼻腔をくすぐった。
――おしまい。
さ、最後が尻すぼみですみません;;
小話はまた機会があれば是非書きたい、かなーと。